(青字は医療従事者向けです。)
低体温症は冬山だけでなく、夏山でも起こりうる。いかに予防するかが大切。
【なりやすい3大要因】
①低温:気温10℃以下
② 濡れ:雨、雪、沢
③風:風速10m/s以上
【肉体的な要因】
・体力がない
・疲労
・高齢者、小児:高齢になると体温調節機能が低下し、暑さ・寒さを感じにくくなる。
・脱水
・酒、タバコ
・持病(甲状腺機能障害、血管炎など)
【低体温症の初期症状】
・強い疲労感
・注意力散漫
・ふらつき、歩行困難
単なる疲労と思い込みやすい。
寒さを感じたら低体温症初期であることを自覚しよう。
低温、濡れ、風などの要因のある環境では低体温症も疑おう。
【進行した時の症状】
・体温31-33度:意識朦朧
・体温28-30度:意識がなくなる、呼吸・脈が弱くなる、心室細動(致死的な不整脈)が起こりやすくなる
・体温27度未満:まるで死亡しているように見える
【重症度分類】改訂スイス重症度分類
ステージ1:alert 意識清明→心停止リスク低い
ステージ2:voice 呼びかけに対して反応あり→心停止リスク中等度
ステージ3:painful 痛みを与えると反応あり→心停止リスク高度
ステージ4:unresponsive どのような刺激にも反応なし→すでに心停止している可能性あり
山中において、体温や心停止のリスクをどのように推定するか?
以前は意識レベルとシバリングの有無で分類していたが、近年、意識レベルと心停止リスクに相関があることがわかってきたため、上記分類が使用されている。
ステージ2以上はECMOでの蘇生が可能な施設への搬送を考慮する。
【対応4原則】
②隔離:寒さ、雨、風から隔離。テント、ツェルトなどを使用。
③保温:これ以上体温が逃げないように衣類を着込む、濡れたウエアを脱ぐ
④加温:プラティパス湯たんぽなどで「低体温ラッピング」
【予防が大事】
・濡れないこと
衣類にこだわろう。ベースレイヤーは速乾素材やメリノウールを用いる。コットンやレーヨンはNG。濡れたら着替えよう。汗をかく前に衣類調節。
・風に当たらないこと
ウィンドブレーカーを着る。特に、濡れたウエアで風に当たると急速に体温は低下する。
風の当たらない樹林帯で汗をかき、稜線に出た時に体温が急速に下がることはよくある。
風に当たりながら行動することで通常よりも消費カロリーが増え、行動不能になることも。
休憩は風の当たらない場所で行おう。
【低体温の心肺停止・rescue collapse】
・重度の低体温症は心停止に陥りうる。
・救助開始後、寒冷環境からの隔離後に心停止に至ることもある(rescue collapse)。
末梢循環が改善→末梢の冷たい血液が中心部へ戻り、さらなる体温低下。
腕や脚を動かすこともrescue collapseを生じやすいため、不用意に動かさない。
体幹を水平に保って救助する。
・心停止していても、条件が良ければ回復する可能性あり。
・雪崩遭難で2時間45分の低体温心肺停止の後に後遺症なく回復した事例あり。
・復温されるまでは諦めないこと
・心室細動であった場合は初回の除細動は行うが、2回目以降の有用性は不明。
・山中で、低体温ラッピングを解いて末梢静脈路確保することは現実的ではない。
・アドレナリンの投与の有用性も不明。
・間欠的心肺蘇生
搬送と胸骨圧迫を同時に行うことは現実的でないため、5分間の心肺蘇生、5分間の搬送を繰り返すという「間欠的心肺蘇生」が妥当言われている。
・HOPE scoreを用いると、死亡率予測ができる。
https://www.hypothermiascore.org/
【参考文献】
金田正樹・伊藤岳『図解 山の救急法』2018
川崎吉光 『登山技術全書⑨登山医学入門』2006
日本山岳医療救助機構HP https://sangakui.jp/medical-info/cata01/medical-info-2736.html
救急医学特集『山と救急ー安全登山の本』2024.5 VOL.48 NO.5
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